No Real :in the headphone

Mikan

 空から降ってくる蜜柑。私にぶつかる。ぶつかったはずの蜜柑は、あたりを見回しても、どこにもその橙色を見つけることはできない。

 中学二年の頃、私はひたすら蜜柑を食べ続けた時期があった。蜜柑をむく、果実を噛む、皮を捨てる。ただそれだけをずっと繰り返していた。そのときの私は、その蜜柑がなくなるなんて考えていなかった。ただ気がつくと蜜柑はなくなっていて、蜜柑を取ろうとした手は何もつかまなくなった。

 初めて蜜柑が私にぶつかったのは、高校一年のときだったと思う。下校していた私の頭に、蜜柑が落ちてきた。でもその時は蜜柑が落ちてきたなんてわからなかった。ぶつかった何かはどこにも見あたらなかったから。

 落ちてきた何かが蜜柑だとわかったのは、その少し後、夏休み明けのある日だった。その日私はクラスメイトとくだらない言い争いをした。本当にくだらないことだった。相手がわかろうとしていないのだから、話す必要なんてなかったのに。帰り道そんなことを考えていたら、空から蜜柑がたくさん降ってきたのだ。いくつかの蜜柑は私に直接当たり、それ以外の蜜柑は地面に転がって消えた。私はその転がって消える蜜柑を見ていた。音もなく地面に落ち、じわじわと消えていく姿を、蜜柑に打たれながら見ていた。

 それからは、定期的に蜜柑がふってきて私に当たるようになった。でも数はまちまちだった。たくさん落ちてくることもあれば、一個だけを私に命中させることもあった。

 私は、空から落ちてくる蜜柑が何なのか、大体の見当がついていた。これは食べ続けた蜜柑の復讐なんだって、何となくそう思った。あのときの蜜柑は、すごく貴重だったんだ。それなのに私は、その価値を知らずに食べ続けた。その報いが今こうやって降ってくる蜜柑にあるんだ。

 もう私が食べられる蜜柑はない。きっと、これからは蜜柑をずっと食べることが出来ない。一生をかけて、ただ食べた蜜柑を思い出すことしか出来ない。私があの時蜜柑の価値に気付いていたらなんてことを考えて生きていく。食べてなくなったものは、もう戻ってこない。

 だから、今日も空から、ただ蜜柑が降ってくるのを、私は耐える。

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