No Real :in the headphone

No head

 曇った日曜日の午後のことだ。ある男――眼の下にクマができ、視線がせわしなく動いていた――と、その隣で女が一緒に歩いていた。

 男は時々何かを睨み付けるような表情をしては、ぼそぼそと何かをつぶやいている。言い終わるとまた視線は泳ぎ、歩くすがたもどこかぎこちない。

「あのさ、すごく疲れた」

「他の人が何を考えているか、全然わからないね。すごく気持ち悪いよ」

「でもちょっとは分かるようになったつもりだよ。それが余計にわからなくしてるんだけど、うまくいえない」

「やめたいんだ。どうでもいいから」

「どうすればいいかな」

 女は前を見たままこういった。

「知らないわよ。そんなこと」

Cold Water

露出オーバーで、昼間なのに誰もいない教室で、そんな教室の隅で、独りで、夏で、でも窓が全部しまっていて、でれない、目を閉じると、前の自分がいて、他にも誰かがいて、みんなが、笑っていた。

Plus-Minus

 ああ、今日も終わったと僕は思って、カバンを適当に投げる。床にねっころがって、白い天井を見る。昨日とおなじ色で、何の色もない天井を見る。

 確か数日前まではそこに誰かの輪郭があった。僕はそれを見るたびにお腹のあたりがごろごろとなって、浮かれた気分になった。思い出せばいくらでも出てくることだ。でもすぐに忘れてしまって、いくつかしか残らないだろうけど、それでいい。

 ここ数日で、いろんなことがあって、いろんなことが終わった。何か始めようとして、何かが終わった。ノートに書いたいろいろも、意味がなくなってしまった。でもそれでいい。

 そして、ピリリリリと、ケイタイが鳴った。

「明日の時間は10時でいいんだっけ?」

 と彼女は言った。

Archives