No Real :in the headphone

Continuation

 私にストーリーなんてない。私は現実に住んでいる。物語は無責任だ。全ては終わりがあって、終わるときに美しければいい。でも現実は違う。生きたまま終わらせる事は出来ない。

 悲しい話と、楽しい話をたくさん読んだ。どちらも美しくて、自分の汚さがよくわかる。それが物語だとしても、世界にはその物語を実践している人はいる。そんなことないって? 違うよ。私が昔そうだったんだ。

 ストーリーの終わりなんてないと思っていたけれど、その美しい物語の範囲が終わって現実に降りてきた時、美しい全てが消え去った。そして残ったのは、その物語に対する支払いと、これから先にそんなことが二度とないことへの理解だった。

 時々すごく幸せな夢を見て、それがかつての物語であることを起きてから気付く。いくらか切って貼られた記憶だよ。

 桜が咲く季節に、綺麗だねって私が笑って、それに答える人がいる。どしゃぶりの雨の日に笑いながら帰る私がいる。教室のカーテンが揺れて青空が見える。屋上から校庭を見渡すと、部活をやっている人が見える。階段を一番下まで降りると、放送室のランプがついている。職員室に入るときに「失礼します」なんて言う。部活の届け出をだして、準備をして、そのために遅くまでのこって、いろんなことを話す。掃除をする。掃除をする時に誰か先生の真似をする。朝起きて早く学校に行く。はやいねって、誰かが言う。君だってはやいのに。放課後残っていると早く帰れと言われる。夕日がさしこんで机が焼ける。

 もうない。でも眼を閉じて、それがずっと、ずっと続く。

Flying Book

 手を離した風船が空に消えるのを見ていた。途中で紙飛行機が遥か上空で飛んでいるのを見つけて、群れた本たちが冬を越すためにわたっていくのが見えた。

 英語の授業を抜け出してきた駅前は、目が空ろな人々がたくさんいて楽しくない。メガネ、ヘッドフォン、腕時計、黒い外套、そんなものみんなとってしまえば、みんな同じだ。

 誰かが立ち止まる。小学生ぐらいの女の子だった。意思が強そうな眼で僕を見ていた。眼を離すといけないと思って、僕もずっと眼を見ていた。そして小さな手が伸ばされ……消える。

 僕もあの本みたいに、冬を越すために他の場所に行かないといけないはずなのに、どこに行けばいいかわからないし、どうやって行けばいいかわからなかった。

What is in the Bucket.

 悲しみの入ったバケツを覗き込むと、自分の顔がはっきり見えた。バケツはどこまでも深く、黒く、あるいは青く、静かだった。

 向こうの世界の僕がちょっと笑って、手を伸ばしてきた。それを僕は握って、向こうの世界に引き込まれる。バケツに入る時、少しひやっとした感覚が全身を覆い、しかしすぐにそれにも慣れて、深く深くへもぐっていく。

 どこまで行っても黒いのかと思えば、何十分も先まで潜ったとき、唐突に視界が開け、なにもかもの気持ちがふっとんだ。いつのまにかやたら青くて雲もない空の下に僕は立っていて、目を閉じて風のノイズを聴いていたことに気付く。

 特別な事は何もなく、ただ三つ数えてひっくりかえる世界で、ただ僕は砂時計をひっくりがすのを繰り替えしている。

Cry Aloud

 大きな声で叫べないあの子は助けを呼べなくて死んでしまった。すごく晴れた日の朝で、見上げれば吸い込まれそうな空の日だった。あの子の本当の考えや、本当の気持ちを誰も知らず、その子はそんな感情を隠して生きていた。

 時々困った顔をしていたって、誰かに相談しようともしない。冷たい瞳でカーテンの隙間の空を見ているときは悲しいことがあったときだったらしい。そんなことにも気付けずに、日は廻っていった。

 でも僕の中には、そんなあの子の生きている未来があって、そして僕は新しい世界を作る事が出来る。まぶたの裏に映る風景を世界に移して、その物語を紡ぐ世界が生まれる。誰かが言った言葉を忘れて、僕はまたその瞬間に笑顔でいるだろう。

A Boy and Girl on Falling Spiral Staircase

 少しずつ階段を上っていってるつもりだけど、それって階段が止まっていることを前提にしているよねって彼女は言って、そんな視野が狭い上り方なんてしたくないって笑った。

 そんな彼女は雨の日に事故で死んでしまった。僕は友人伝いにその話を聞いて、なんてあっけないんだろうと思った。

 そういうことを思い出していた昨日は、気付けば思い出の中の彼女の台詞の直後だった。彼女は何故か驚いた顔をしてまた笑って、「何万回も泣いて、たった一回笑えるのが嬉しい」って言った。

 互いに戻った時間の中で、つじつまをあわせながら生きてきた僕らが、やっとここで笑えて、未来で失くしたものを取り戻した。冷たい雨の日ももうない。ここで永遠は終わったから、悲しいことを引き出しに大事に締まって、鍵をかけた。

The Rained Day

 始まりが何時だったかをさかのぼってみれば、結局のところ僕が生まれた時、ということになるだろうか。気付いたときに、僕は全てが間違った世界に独りでいて、その全てを正しくすることを考えていた。誰かが僕のことを頭のおかしいやつだと言うのを聞いた。それはきっとこの世界では間違いではなく、それ故に僕は全てを正しくしなければならなかった。

 そして、初めて見た景色を思い出すと、僕の視界は一度暗転し、その景色を映し出した。雨の日、雨の匂い。庭の傘、打ち付ける雨の音。僕はまたそこに立って、記憶はまだそのままだった。記憶の中の過去の景色と、僕が見ている景色の全ては同じだった。ただ事実としてそこにあって、僕の記憶に新しく積み上がる今の景色は、その記憶によって形を少しずつ変えていく。

 どうすれば正しくなるのかを、全てがうまくいく方法を、考えなくてはいけなかった。何が間違っていたか、どこで間違ったのかを考えなければならかった。それは僕が僕自身で全てを考え導き、正す必要があることだった。誰も僕の味方はいない。祈るのなら神様がいるだろうけれど、生憎にも記憶は神様なんていないことを知っていた。

 僕は眼をつぶり、雨の音をよく聴く。

 気付いた事は、こうして雨の音を聴いたのが一度ではなかったことだ。このことさえも、もう何度目かわからない。

 何度やっても、どう動かしても、結局全てはうまくいかなかった。そして全てのケースで僕は救われず、他に誰が救われないかが変化するのみだ。今更何ができるのだろうか。何度の自己暗示で超えた時で、僕はただ主観的に年をとり、そろそろ寿命なのかもしれない。

 なんだか疲れてしまった。今なら雨の音が美しく、このまま眠れそうだ。だからそうだ。この音が美しいと感じるうちに、寝てしまおうか。

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