No Real :in the headphone

Lovely day

 灰色のむらのある空と、草もろくにはえていない、荒野とよぶにふさわしい場所、私は夏制服でそこにたち、地平線のかなたへと移動する空のむらを見る。風が吹くと肌寒く、何か上にはおるものが欲しい。でもそんなものは、ここにはない。

 周りには誰もいない。見渡す限りまったく、誰も、動物の影さえも、ない。

 少しずつ風が強く、寒さが増す。きりきりと、肌が切り裂かれるような感覚。ふっと、私は地面に倒れこみ、空を見る。空は落ちてくる。私は抗うこともできず、それに潰される。


 そして私は目を覚ます。布団の匂い、背中をおりまげて、小さくなった私は、部屋の無音に耳をかたむける。頭の中には夢の光景の残像がある。灰色の空のむらは、まだ私の心を、ゆっくりと、ゆっくりと、決して晴れることなく、流れ続ける。今日も、明日も、ずっと。

Butterfly in My Heart

 電車の中で、私はただ、怯える。周りの人たちが、次の一瞬に大きな声で私を怒鳴りつけ、排除しようとするのを、感じてしまう。みんな、無関心を装って、私に嫌な視線を投げかけて、殺してやる、殺してやる、と言葉を投げかけてくる。私はどうしようもなく、怖くて怖くてしかたなくて、眼を閉じて、ヘッドフォンの音に集中して、苦しまずに、死んでしまう方法を、殺されるまえに、死んでしまう方法を、考える。考える……

 学校につくと、クラスメイトに「おはよう」って挨拶をされるけれど、私は、それにうまく答えられなくて、また、そのクラスメイトに、あきれられてしまう。「挨拶もできないの」だとか「感じ悪い」だとか、私の頭の中に響く、でもクラスメイトは、いつも笑顔で、だから余計に、私は、怖くなる。この学校に来てから、明確ないじめみたいなのは、私は見たことがないけれど、何かの切っ掛けで、私がまた対象になったり、するかもしれない。そう思うと、そんな、ただの「かもしれない」でも、不安でいっぱいに、いっぱいになって、私の世界は、真っ暗闇に落ちていってしまう……

 昼休みになれば、私は、できるだけ独りに、独りになろうとして、立入禁止の屋上に入って、心を静かにして、空を見て、雲を見て、どうにか落ち着くことができるけれど、その瞬間瞬間にも、誰かにこうしているのが見つかって「屋上は立入禁止だぞ!」って、怒られることを、思い浮かべてしまう。でも、それでも、こうやって、確実に独りになれる場所にきて、心を落ち付かせることを、しなくちゃ、いけない。もしかしたら、そんな誰かに見つかってしまったら、私は唐突に、屋上のフェンスを乗り越えて、死んでしまうかもしれない。でもそんなことは、やっぱり、考えないように、考えないように……

 私の心には、いつもいつも、蝶が閉じこめられて、バタバタと鱗粉を落としながら、もがいている。誰か、助けて欲しい。でも独りでいたい。ずっと、でも、むり。独りは生きていけない。生きていけない。なら……

Before Sleeping

 ただ日々が続いて、明日もまた、たとえば今眠らなくたって、きてしまう。誰かに伝えたいことがあった。今、それを誰かに伝えられない、私がいる。朝はいつも灰色で、だから私は、眠ることをためらい、とてもとても、不安な気持ちになりながら、それでも眠らなくちゃ、って必死に、眼を閉じる。雨が降りそうで降らないような天気が、いつも、私の心。眠るときの、「だめだ」という気持ちと「ねむらなきゃ」という気持ちの、反転、少しずつ少しずつ切りかわるスピードがはやくなっていって、朝がくる。

   まっくらな部屋に眼が慣れて、月の光を少し感じる。耳に届く音はかすかで、世界の中で、私だけがいるような、不思議な感覚。独りであること、相手がいないこと……日々の青さ、私の未熟さ、眼を閉じて感じる、届かない光。不安で、不安で、毎日、毎日、心をいっぱいにしながら、深く、深く、布団にもぐりこんで、心の底にもぐりこんで、なにも見えない。

 そして私は今日も、少し明るくなりはじめてから、ようやく「ねむらなきゃ」が勝って、眠る。

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