No Real :in the headphone

Closed Surface

 登校日のロングホームルームのあと、私は少しため息をついた。それが暑さからきたのか、夏休み中の登校日の面倒くささからきたのかはよくわからない。

 せっかくきたのだから、と思って学校の中を少し見て回った。夏休み特有の、少しだけ埃っぽい、そんな雰囲気。一通り歩いた後、プールに行こうと思った。ただなんとなく。

 プールの入り口は施錠されていたけれど、鍵ごと動かせるドアなので入るのは簡単だった。校舎から聞こえる誰かの声が、少し遠い。

 プールサイドで水面を見ながら、私は起きながらにして夢を見ていた。小学生だったころにいった公園のプールや、その日の空の色。少し疲れた青いあじさい。風の音と、少し遅れて揺れる緑の葉の色。そういうことが、私の頭の中を、自動的にかけめぐる。

 気がつけば空が茜色に染まり、光はプールの水面に反射してきらめいていた。私は、誰もいないプールで、日が落ちるまで、その光が踊るのをずっと見ていた。

Room With Tender Walls And No Roof

 少し前の話。

 気がつくと見覚えのない場所にいた。数メートル四方のスペースに、十メートルほどの壁がまっすぐ立っている場所だ。見上げると空があり、そのときは群青色に雲が少し浮かんでいた。

 壁はこれ以上ないくらいに真っ白だった。さわってみても凹凸が感じられない。床も白。おかげで高い壁があっても、太陽があるうちは暗くはなかった。

 何がなんだかわからなかったけれど、出口はないし、壁を上るのも不可能なので、出ることはすぐに諦めた。見上げて見える空以外に見るものはなかったけれど、お腹は減らなかったし、不思議と寂しくもなかった。夜は真っ暗だったから、いろんなことを考えて、どうせだからいろんなことを忘れようとしてみた。そんな感じで一週間ほど(よく覚えていない)寝たり起きたり、余計なことを考えたり、空をただ眺めたりしたと思う。

 そんなある日、朝起きて空を見たら――というより勝手に眼に入るのだけれど――雲が灰色で、雨が降り出しそうな感じだった。ずっと晴れているのもおかしいか、と思っていたら、案の定雨が降り出した。それも、かなり強く。

 降り始めて気付いたのは、この場所には水が抜ける穴がないこと。つまり、雨水がたまっていくのだ。雨は本当に強く、あっというまに足がつかなくなってしまった。

 そんなこんなで、長い間、立ち泳ぎをしながら息をついていたのだけど、だんだんと疲れてきてしまった。空も近くなってきて、もう少しで溢れるんじゃないか、と思ったとき、唐突に僕は意識を失った。想像以上に疲れていたのかもしれない。

 気がつけば懐かしい匂いのする部屋にいて、誰かが僕を呼んでいた。壁は白かったけれど、高い壁ではなく、天井も、ドアもあった。

Washer1

 僕の部屋にある洗濯機が、別の世界に繋がっているなんて、きっと誰も思わないだろう。でも実際に、僕はその洗濯機から出てきた少女と話をし、僕自身も行ったのだ。それはごく短い時間ではあったけれど。

 その洗濯機について、もう少し詳しく書こうと思う。その洗濯機はもうそろそろ十数年使われている。黒く、大きい。ひとたび洗濯物を飲み込んで回りだせば、ものすごい音を立てる。これでも一応全自動なのだ。その洗濯機は全自動であることと、優しい愛妻号であることだけに誇りを持っている、と僕は思う。つまり省電力でもなければ節水でもない。ましてや低騒音なんてもってのほか。その洗濯機は騒音が唯一の自己表現。という感じ。

 僕の部屋の洗濯機についてごちゃごちゃと書いたけれど、結局、それらと別の世界への繋がりとはあまり関係ないのだと思う。おそらく、その洗濯機の色が白だろうがピンクだろうが、あるいは殆ど音を出さないうえに省エネなタイプであろうが、きっと別の世界に繋がっていたのだと思う。二層式は解らないけれど。

 とにかく、その洗濯機から、少女はでてきた。彼女は学校から帰ってきたら既にいた。だから僕は直接的には彼女が洗濯機から出てきたところを見ていない。じゃあ何故洗濯機からでてきたと言えるのか。簡単だ。彼女がそう言ったから。そして僕自身も洗濯機を使って別の世界へ行ったからだ。

 僕が部屋の鍵をあけ、自分の部屋に入ったとき、彼女は洗濯機によりかかって本を読んでいた。

Summer *Autumn Winter

 ぼーっとしていたら、コーヒーがすごく濃くなってしまった。捨てるのはもったいないから、砂糖を多めにいれて飲む。

 ばかみたいに濃くて甘いコーヒーを飲んだら、なぜか眠くなってしまった。おかしいなぁ。仕方ないから、少し床に寝そべって、天井を見てみる。まぶたは重いのに、頭の中は妙に冴えていて、不思議な気分。

 少し冷静になって、遠くから今の私自身を見てみる。数度目の思考スキャンで、私がとにかく混乱していることに気付く。

 今季節は秋なのに、私は強く春を求めている。だけど、冬が終わったとしても、春が来ないような、そんな気がする。夏と秋と冬がぐるぐるまわって、春が来ない。いつからだろう? いつからだろう。いつからだろう、って考えて、わからないからやめてしまう。今はこなくても、そのうちきっと来るはずだから。

 眼を天井から壁に落とすと四月のカレンダーがめくられずに残っていた。少し見ていると、それは手を伸ばしてきて、私の肺を掴みながら、こう言った。

「二度とお前に春なんて来ない」

 ひどい話だなぁって思って、私は笑う。私は笑う。私は笑う。

Kill me

 ワイヤーフレームな景色が現実感。マイナースケールなギターの空気感。

 二重の思考。

INGHT

 部屋に戻ると、見覚えのない人がいた。いやあるのかもしれない。どうも自信がない。そもそも僕はあまり人の顔を覚えるのが得意じゃないから。

 本を開き座っている少女。僕に気付き、目があう。

「誰?」

 と僕が訊く。

「悪魔だよ」

 と答えて、彼女は唐突に歌いだす。

 そうか、と思った。彼女には見覚えがあった。確かに。何故忘れていたのだろう?

 いや、そんなことはどうでもいいんだ。結局、僕の最初の考えは間違っていなかったから。

Play at Humans

 いつものように、予備校に行って一番の後ろの席に座って、教室を見ていたときに、私は不思議な気持ちになった。

 なんでこの人たちは、こんなに必死なんだろう。なんであの教壇に立っている先生は、答えられなかった生徒を叱っているんだろう。なんで私は、ここにいるんだろう? 私が私じゃなくなって、幽体離脱しているような感じ。なんだろう?

 きっと私たちは人間ごっこをしているんだ。そう思った。人間らしく考えて、人間らしく悩んだり、泣いたり、喜んだりする。人間らしく生きていることに楽しさを抱いてる。悲しいことも楽しんでいる。人間ごっこなんだ。遊びにすぎないんだ……

 遊びなのに、いままで私はそれに気づかずに、つらい気分になったりしたんだ。でも、これからも。

 私はこの遊びをやめる方法を知らない。どうすればやめられるんだろう? いつの間に? 誰に? 誰が?

 そんな、遊びの中で、私は、人間らしく、人間ごっこについて考えるんだ。

Silent Room

 私が独りでいると、決まって誰かが「誰かそこにいるの?」って問いかける。でも、私は返事をしない。私はその誰かが誰なのかを知っているし、なんで呼びかけているのかも知ってる。知らないことなんてない。全部知ってる。

 呼びかけている誰か、なんていないんだ。

 今、部屋には私独りしかいないんだ。

Clear the Head

 秋。雨がふるたびに、空気が冷たくなる。

 秋。雨がふるたびに、空気が透明になる。

 秋。いつのまにか晴れた空を見上げて、私は、すべてを忘れてしまう。

Dreamer in Dream

「夢を見ていたんだ」

 僕は君に話しかける。

「何もない立方体の部屋で、君と呼ばれる誰かに話をする夢」

blue

 見上げると真っ青な空で遠近感をなくし、視界がぐらぐらと揺れる。視線を元に戻して周りを見ると、誰もいない。

Black or White

「この音が聞こえるか」と彼は言った。

 つまびくギターの音が私に聞こえていた。でも私は

「どの音?」って聞き返した。

 彼は笑った。

 私は目を開ける。目を開けると真っ白だった。さっきまで真っ黒で、光を感じなかったのに、今度は真っ白だった。真っ白以外なにもなかった。そのなかで、ギターの音がどこかから聞こえていた。


 今日私は、そんな夢を見た。

 そして私は無音の、灰色の部屋で起きて、窓の外のやけに青い空を、見た。

Smoking under the Ground

 その道の落ちている煙草の吸殻の一つ一つが、黒いもやもやを含んでいる。私がそれを見るだけで、その黒いもやもやは私の胸にたまっていく。

 誰も考えないから、誰も考えないなら、私はもう、外を歩きたくないと、何度も、何度も、思うのです。

 黒いもやもやは、私が悪いのでしょうか。それなりの誠実に生きてきたつもりの私は、どこで間違ったのでしょうか。

Fall into Hell

 秋の空気をやさしいって思うのは私だけなのかな。少し冷く感じる温度が、私の体温と一緒に、嫌なことももっていってくれる感じがする。だから、私は秋が好き。冬の空気はとがりすぎているし、春の空気は優しすぎてつらい。そんな風に感じる。

 こんなことを考えながら、独り、部屋で天井を見上げてる。もちろん天井に何かがあるわけじゃなくて、たまたま目に天井が写っているだけだけれど……でも、私は、こういう風にしてどうでもいいことを考えるのが好きなんだ。誰も見てない。何の役にも立たない。

 なんとなく、CD の音を消してみる。みんなが寝ている時間だから、すごく静かになる。静かになると、すごくお腹が締め付けられる感じがする。なんていうんだろう? どんな感情なんだろう?

 少したつと耳が痛く感じてくる。私はしかたないから CD を掛けなおす。

 そして、乾いたやさしい歌を聴きながら、眠くなって、寝てしまうんだ。ああ、なんて私は幸せなんだろう。

Magic Words

「君は魔法ってあると思う?」

「言葉。言葉が魔法だと思うね」

「君はあっさりと気持ち悪いことを言うのね」

 彼女は何かを考え、苦笑した。

No people in the world

 朝起きて外にでる。夏にしては冷たい空気を吸い込む。まだ太陽があがりきらない朝の、すこし突き放すような空気に、僕は包まれている。朝がきたと実感する。新聞が挟まっている。もう今日という世界が動き出していると実感する。

 階段をくだって、通りにでる。車が走っている。

 車。しかし僕は奇妙な違和感を覚えた。車に、人が乗っていなかった。車は独りで走っていた。道をまがり、僕の知らない目的に向けて。

 犬が歩いているのを見掛ける。首輪がついているが、まわりに人はない。よくみると、首輪につながれている紐が浮いている。まるで、誰かがそこにいるように。

 僕は例にコンビニに入ってみた。店員はいなかった。近くにある他のコンビニにもいってみたが、誰もいなかった。

 おかしい。人の気配がする、いつもと同じ朝。そのはずなのに、人が見当たらない。一人も。

A Day of a Headphone Girl

 私って少し異常なのかなって少し思って、ううん、こんなの誰でもあるんだって思いなおす。こんな下らないことにでも、アイデンティティを見出そうとして、馬鹿みたいだなぁって少し自己嫌悪。

 私は音楽を聴くのが病的にって言える程好きで、だから、家でも外でもヘッドフォンをして、もう少し時代遅れのプレイヤーから音楽を流してる。私はこうしていないと落ち着かないみたい。一度プレイヤーの電池を切らしちゃって、そのまま出かけたことがあるのだけれど、どうしても不安でしかたなかった。小学生のころ一人で留守番したときのような、そんな不安。もう、あんな気持ちになるのは嫌だなぁ、なんて思いながら、私は今日も学校へいく。

 少しだけ歩いて、少しだけ電車に乗って、また少しだけ歩く。そうすると私が通っている学校。教室に入る。誰もいない。一番乗り。少し嬉しい。少し寂しい。自分の席に座って、窓から空をみて、いい天気だなぁって思う。そしたら急に、頭に唄が浮かんで、聞きたいなぁって思いはじめて、まだ途中なのに、曲を変えてしまう。ごめんね前の曲さん。

 そうやってぼーっとしてると、みんなが教室に入ってくる。担任の先生が来て、ホームルームをする。私はヘッドフォンをとる。そういえばこの前、ヘッドフォンしたまま眠ってしまって、先生に叩き起こされたなぁ。とか思い出してみたり。少し笑ってしまう。馬鹿だなぁ。

 放課後になって、私は部活に入ってないから、家に帰る。別に入りたくないわけじゃなかったんだけど、なんだかタイミングを逃してしまった。だから、放課後は少し詰まらない。家に帰っても、やることなんてない。

 セーラー服もそのままで、部屋に横になって、天井を見る。白い天井に、お母さんが作ったかさに包まれて、白熱灯がぶら下がってる。そして、もっとちゃんと笑えれば、男の子も寄ってくるのかなぁ、でも、もとがだめかなぁ、なんて、自分の恋について、考えてみたり。まあ、そんな日もあるのですよ。

 そんなこんなで、ご飯を食べて、お風呂に入って、髪を乾かす。私の髪の毛は、自慢じゃないけど綺麗って褒められる。私も綺麗だと思う。って、やっぱり自慢だね。でも、ときどきこの髪を短く切ってしまいたいなぁ、なんて考えてしまう。なんでだろう?

 寝る前に、ふとんに仰向けになって、好きな唄を少し聴く。目を閉じて、ヘッドフォンの奥の風景を想像する。そうやって見える風景がすごく好きで、なんだか、また明日も生きていけるかなって思う。そんなこんなで眠くなって、また明日。

 明日は、何かいいことがあるかなぁ?

0001

夕暮れの景色のなかを僕は歩いている。前を歩く二人が、楽しいそうに、笑う。


ヘッドフォンの奥の景色がすごく好きで


教師となった俺、赴任先の中学は俺の母校。教室に入ると、過去の俺がいた。


窓ガラスに映る夕日 


「なに?」

「何を聞いているのかなぁと」

「あなたには関係ないわ。それに、言ってもわからないと思う 」

「そう言われると余計気になるね」

「ふーん。まぁいいわよ。ウェンディーズっていうバンド。マイナーだし、知らないわよね」


「否定も肯定も変わらないわよ。否定して傷付く人がいるなら、肯定されて傷付く人もいる。例えば今の私達とかね。」

Flower

花は何も言わない。文句もなにも。少なくとも聞こえない。

花は裏切らない。

なら、それでもいいんじゃないか、と僕は思う。

閲覧室の窓

僕はいま閲覧室にいて、窓から外を見ている。近くに電車が通っているが、そんなに音がしない。まぁ、閲覧室だし、防音されているのだろう。

空は晴れてはいるが、都会独特の少し彩度が落ちた青で、僕の気分を悪くする。

僕がこちらに引越してきて、もう十二年になる。僕はいま十八歳なので、人生のほとんどをこちらで過ごしているといってもいい。でも僕はいまだに、この青に慣れることができない。

Lost

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Stage

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March

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