No Real :in the headphone

Bottle of Tear

「綺麗な顔が台無しですよ」

 大きなハンカチを差し出してくれた。私が受け取らないから、大きな手で眼と鼻をぬぐってくれて、顔を覗き込むんだ。

「ちょっと待ってくださいね」

 覗き込んだ眼が一度閉じられた。もう一度開くと透明度が増して、どこまでも吸い込まれそうな眼だった。その人は私の手をとって、少し力を込める。

 少したつとまた眼が閉じられて、元に戻る。柔らかで、近くを、私を見てくれる眼だ。

「気分はどうですか?」

 ちょっと唐突な質問で、私は驚く。いつのまにかすごく晴れやかな気分で、周りを見ると世界が広くなったように感じる。耳は風と遠くの喧噪を取り込み、眼はオレンジの光に染まった屋上をはっきりととらえてる。

「なんだか、すっきりました」って私はようやく答える。

 その人はまた少し笑って、液体が入った小瓶を掲げてちょっと振る。

「これがあなたの悲しみですよ。また何かあったら呼んでください。すぐにきますから」

 瓶を私に握らせて、振り返って消えてしまう。瓶の中の液体は透き通ってかすかに青く、よく晴れた日の空の色みたいだった。コルクの栓がまだ温かくて、冷たい手には気持ちいい。

 もう一度周りを見て、オレンジ色に染まった風を感じる。忘れないように、瓶は机の引き出しの右奥に入れておこうと思った。

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