No Real :in the headphone

Her sight

「今何を見てる?」

 彼女が突然私にそう訊いてきた。最後のショートホームルームのあと、少しぼーっとしていた私は、質問の意味を理解できず、答えに戸惑った。

「何を見てる……?」

「えっと、いやいいや。じゃあ、今どこに行きたい?」

「どこにって、よくわからない」

「どこでもいい。なんでもいい。ありえなくてもいいから」

「それじゃ、草原。地平線まで全部草原」

「わかった。じゃあ眼を閉じて」

「何をするの?」

「眼を閉じればわかる。眼を閉じたら五秒数えて眼を開ける。眼を閉じている間は数えるのに集中してね。数えるのに集中。いい?」

「わかった」

 そうして私は目を閉じた。視界が暗くなり、不安になる。彼女に言われたとおり、私は数えだす。

 いち、に、さん、よん、ご。

 眼を

「え」

 開ける。

 私は草原にいた。地平線まですべて草原。透き通る空、私の座っている椅子、彼女、それだけ。教室の喧騒はどこかに消えてしまって、私の眼の前には、一人だけが立っていた。

「今何を見てる?」

「え?」

「草原が見えているならいいんだけど、見えてる?」

「うん」

 混乱しながら、彼女に問いに精一杯答えた。彼女は声を続ける。

「見えてるのってみんな、ただ眼が選んでるだけなの。無意識のうちに、たくさんある何かのなかから、それっぽいひとつを取り出して、見てるだけ。それが一瞬一瞬にあるの」

「この、これは、何?」

「うん。だからね、私は、君が草原にいる状態のをとりだして、見たの。私の視点では、君が草原に私と一緒にいるというだけ。君の視点では、私が君の無意識に干渉して草原を選ぶように仕向けたって感じ。別に場所が移動したわけじゃないの」

「場所が移動したわけじゃなくて、見るものが、変わっただけ」

「そう。君ってちょっとぼーっとしてるのに、集中力があるから、できるかなぁって思ったの。まさか一発でできるとは思わなかったけど」

「これ、戻れるの?」

「見てるものが違うだけだよ。見るものを戻せば戻れる。ついでにいうと過去とか、未来っぽいとこにもいけるよ。もっといえば、なんでもできる。できないことなんてない」

「え、うん。じゃあ、戻りたい」

「自分でやってごらん。さっきまでいた場所を思い出して見ればいいから」

「できないよ。やりかたが、わからないから」

「ねぇ、私自身も、君の見ているものの一部なんだよ。もともと君は見方を知ってるんだ。そうじゃないなら、私はここにいない。私が誰だかわかる?」

 混乱は静まっていた。私の頭で、いくつかのパズルのピースがかみ合う。

 眼を閉じる。ぐるぐると、黒い画面に、いろんなものが見える。

 眼を開けると彼女はいなかった。私は教室の喧騒の中自分の席に座っている。

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